自然界は比較的限られた原料をもとにして、その組み上げ方を変えるだけで、きわめて独創的で多様性に富んだ化合物ライブラリーを構築しています。その巧みで無駄のない生合成経路は、近年医薬品合成研究の場で求められている多様性指向型合成(diversity-oriented synthesis) の優れたお手本になると考えます。
私たちの講座では、「自然が生み出した芸術品」ともいえる天然物をモチーフとして自然の英知に学び、自然が育んできた化合物ライブラリーの構築法に、人類が培ってきた精密合成化学の手法を組み合わせることによって、医薬品開発や生命科学の研究に有用な機能性分子を創製することを目指しています。また、そのための基礎となる合成法の開発を通じて合成技術の進歩に貢献してゆきます。
藍藻が産生する環状ペプチドのデンドロアミドAは、がんの多剤耐性獲得に重要な役割を果たすP糖タンパク質(P-gp)の阻害作用をもち、多剤耐性がんに対する抗がん剤の作用を回復させることが報告されています。我々は、デンドロアミドAのアゾール環の向きを変化させた非天然型アミノ酸ユニットの合成法を開発するとともに、それを組み込んだアナログ分子の創製を行い、それらのP-gp阻害活性を調査行うことで、構造と阻害作用との関係を解明しようとしています。
非天然型のオキサゾールユニットを、Pd触媒を用いるアミドカップリングと、エナミドの臭素化に続く環化反応を用いて合成法しました。
非天然型チアゾールユニットを、硫黄の不斉を利用した不斉還元、あるいは、不斉チアゾール化を用いて合成法しました。後者の手法は非天然型ユニットだけでなく、天然型の合成にも利用できることを明らかにしました。
合成した非天然型アゾールユニットと天然型ユニットを組み合わせ、アナログ分子を合成してP-gp阻害活性を調査しています。
天然由来化合物であるBalanolは、fungus Verticillium balanoidesの二次代謝産物であり、これまで3つの研究グループにより全合成されています。Balanolは、cAMP依存性プロテインキナーゼC及びAに対し強い阻害活性を示し,ATPの3000倍の親和性でATPと競合的に作用します。プロテインキナーゼCファミリーは、様々な疾患に関係していることから、その選択的阻害薬は治療薬としての可能性を有しています。そこでBalanolをシード化合物として、選択的プロテインキナーゼC阻害薬の構造活性相関研究を行うべく分子設計を行い,新規化合物の合成を行っています。-gp阻害活性を調査しています。