薬を適正かつ安全に使用することは、薬剤師に課せられた重要な仕事のひとつです。しかし、臨床現場では、エビデンスがないにも関わらず経験的に実施されていることが多くあります。実践医療薬学講座では、これら臨床現場で起こりうる様々な薬学的問題点を探り、薬剤師の目線で、薬を適正かつ安全に使用できる解決法を探索しています。
医療現場での患者さんの多くは、栄養状態が悪く、そのため、輸液や経腸栄養剤にて栄養を補給しています。しかし、栄養を投与する上で、多くの問題が発生します。そこで、配合変化の問題、薬剤と栄養剤(特に半固形化経腸栄養剤)との相互作用等を解決していきます。
脂肪乳剤は栄養輸液との混合により、脂肪乳剤の粒子径増大による配合変化が起こります(写真)。一方、脂肪乳剤と栄養輸液の混合時間が短いため、栄養輸液投与ルートの側管から脂肪乳剤を同時に投与する場合があります。しかし、栄養輸液以外にも他の治療薬が脂肪乳剤の粒子径変化に影響を与える可能性があります。そこで、他の治療薬の脂肪乳剤の粒子径変化への影響を検討しています。
経腸栄養法の合併症である消化器合併症や誤嚥性肺炎などを予防する目的として、半固形化経腸栄養剤を使用する施設が増えています。半固形化経腸栄養剤は増粘剤として食物繊維を含有するため、薬剤の溶出や食物繊維への薬剤の吸着が予測されます。そこで、食物繊維や半固形化経腸栄養剤における薬剤投与への影響について検討しています。
患者をとりまく環境(壁、床、ベッド周辺、医療機器など)には、様々な微生物が存在していると考えられています。そこで、病院や調剤薬局における細菌群集構造を網羅的に解析し、環境中に存在する潜在的な病原性細菌の動態を捉えることにより、包括的な細菌リスク評価を実践することを目指し研究しています。
抗菌薬感受性試験データの解析
静脈栄養法の問題点とされるカテーテル由来血流感染症の原因として、手指との接触等によるカテーテルやカテーテルハブの汚染や輸液の汚染等があげられます。末梢静脈栄養輸液では、Staphylococcus aureusの増殖はチアミン塩酸塩およびニコチン酸が、Candida albicansはビオチンが関与していることが明らかとなりました。全ての輸液の調製は、無菌が保たれる場所で調製する必要がありますが、特に末梢静脈栄養輸液では、薬剤師が無菌調製をしないで投与される場合も多く見受けられるため、注意が必要です。そこで、輸液の微生物汚染の影響について評価し、適正な使用方法を模索します。
フレイルとは、加齢に伴い身体の様々な機能が低下することによって、健康障害に陥りやすい状態を指し、健康と要介護状態との中間の段階として位置づけられています。またフレイルは、ポリファーマシーや薬剤の種類等にも大きく関わっています。そこで、フレイルにおける薬剤の影響について検討しています。
医療現場では様々な問題が発生し、それを解決していかなくてはなりません。そこで、様々な施設と共同研究を行うことで、医療現場での問題を解決します。