免疫系は、感染やガンに対する防御反応を司る一方で、アレルギーなどを惹き起こします。教科書などでは免疫応答は免疫細胞同士が反応しているイラストなどで描かれることが多いですが、実際の免疫系は多種多様な免疫細胞が組織局所だけでなく臓器間を往来することで成り立っています。しかし、その詳細は不明のままであり、それが全身に亘る免疫疾患の解明を難しくしています。そこで我々は、健常時あるいは免疫応答時に臓器間を移行する免疫細胞の時間・空間・数量的な情報と、これら移行した細胞の性状解明によって免疫系の理解を進める「イラストから実際の免疫系へ」というアプローチにより、免疫制御による健康状態の維持を目指しています。
従来、腸管免疫や皮膚免疫、口腔粘膜免疫、ガン免疫など、身体のいろいろな部位で起こる免疫応答は別々に研究が進められて来ました。しかし、食物アレルギーで全身が痒くなる、や、舌下への花粉やダニ抗原投与でこれらに対する全身の応答が収まる舌下免疫療法が開発されたり、乳酸菌を食べると風邪に対する防御応答が高まると言われていることなど、身体の各部位の免疫系はお互いに連関しています。そこで、このお互いに離れた組織間での免疫応答連携の解析が望まれていましたが良い解析法がありませんでした。教科書などのイラストでよく見かけるように免疫応答は、免疫細胞が組織の中でお互いに反応しながら機能を発現するだけでなく、多種多様な免疫細胞が臓器間を往来することで成立しています。そこで我々は、世界で初めて独自に確立した、紫色の光照射で緑から赤に変色する蛍光タンパク質「カエデ」あるいは「KikGR」発現マウスを用いた臓器間免疫細胞追跡法を用いて臓器間の免疫細胞の往来や、その組織でどれくらいの間、その免疫細胞がとどまって働いているのかを明らかにしています。さらに細胞周期を可視化できるFucci-Tgマウスと交配して作成した、KikGR/Fucciマウスを使用してフローサイトメトリー、蛍光イメージング、単細胞の遺伝子発現解析など種々の解析も組み合わせて解析することで、臓器間を往来する免疫細胞の時間・空間・数量的な移動と増殖情報の同時取得と、これら移行した細胞の性状解明による免疫系の理解を進めています。
近年飛躍的に進んだ、抗PD-1抗体などのガン免疫療法の抗腫瘍免疫増強機構の解明において、免疫細胞がどの臓器で増殖し臓器間を移動して働いているのかを明らかにすることは重要なポイントです。そこで、免疫細胞の移動と増殖を同時検出できる世界で唯一の評価系を用いて、ガン免疫療法時、また、腫瘍細胞死誘導による抗腫瘍免疫増強の作用機序の解明を進めています。
腸管からのワクチンや乳酸菌摂取は身体全体の免疫応答に影響を与えます。そこで私たちは腸管から全身への作用を、腸管から全身に移動する免疫細胞という視点で明らかにしようとしています。紫色の光を当てると緑から赤色に変色する蛍光タンパク質「KikGR」発現マウスの腸管に光を当てて細胞を赤色にマーキングした後、他の臓器に移動したマークした細胞を追跡して遺伝子発現を調べます。そして、どういう性格を持った細胞がいくつ、どういうタイミングで移動しているのかを明らかにし、食から健康維持、という医食同源の理解に役立てます。
近年、スギ花粉症などのI型アレルギー疾患において、舌下へのアレルゲン投与で免疫不応答を誘導する減感作療法の臨床応用がなされています。しかしながらその機序はほとんど解明されていません。一概に舌下と言っても種々の組織が存在し、どの組織が免疫に関与するかも不明です。そこで、蛍光タンパク質を発現するリンパ球や樹状細胞を身体の中に持っているマウスを用いて、口腔内のどこにリンパ球や樹状細胞が存在するか、また、抗原が侵入して来た時、これらの細胞はどのように動き、どのように働くかを調べています。将来、効率の良い減感作療法や、注射の要らないワクチンの開発に繋がる研究です。