研究室(講座)一覧

臨床薬理学講座

講座紹介

慢性炎症は糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、肝疾患、認知症、がんなどのさまざまな疾患の共通基盤病態と考えられている。臨床薬理学講座では、「炎症を理解する・制御する」をメインテーマとし、アルツハイマー型認知症やアトピー性皮膚炎、急性肝疾患などを中心に、その病態解明および予防法や治療法の考案を目指して研究しています。具体的には、遺伝子改変によりターゲット分子や特定細胞を除去することで、各種病態・疾患の発症および進展過程における役割の解明研究に加え、これらを標的とした薬剤や素材の探索研究も実施しています。

スタッフ

研究詳細

1. 神経炎症制御を介したアルツハイマー型認知症へのアプローチ研究

アルツハイマー病はアミロイドβが脳内の神経細胞に異常蓄積し、神経細胞死の誘発を介して認知機能の低下を引き起こす進行性の神経変性疾患である。近年、神経炎症が神経細胞死に伴う認知機能の低下過程に深くかかわることがわかってきている。我々は、グリア細胞の1種であるNG2グリアが神経炎症の終息(神経炎症制御)を介して神経細胞の保護に関わることを明らかにしてきた(図1)。現在、①NG2グリアによる神経炎症制御機構の分子メカニズムを解明することや、②NG2グリアが抗炎症活性を介してアルツハイマー型認知症の発症および進展過程にどのように関わるのかについて明らかにすることを目的として基礎研究を実施しています。また、③神経炎症に対する抗炎症活性を有する素材(食品素材や物理刺激など)の探索研究を実施しており、これら素材を用いてアルツハイマー型認知症に対する発症遅延や重症化予防などの新たな改善策の考案を目指した応用研究も実施したいと考えています。

2. 皮膚バリア機能におけるロリクリンの役割の解明

表皮は、水分の漏出や細菌・ウイルスの侵入を防ぐなど、生体にとって非常に重要なバリアとしての機能を担っています。表皮角層細胞には細胞エンベロープ(周辺帯)とよばれる細胞膜の裏打ち構造が存在しています。細胞エンベロープを構成する主成分はロリクリンとよばれ、約70%を占めています。角層機能の異常はバリア障害ばかりでなく、自然免疫系の活性化を介して表皮の炎症反応の誘発にも関わっています。私達は、ロリクリン欠損マウスを用いて皮膚バリア機能や皮膚免疫に与える影響について研究を行っています。

3. ペリサイトによる炎症・免疫制御機構の破綻を介した急性自己免疫性肝炎発症メカニズムの解明研究

急性自己免疫性肝炎は免疫異常により黄疸をともなって急激に発症し、その後急性肝不全(劇症肝炎・遅発性肝不全)へと進行していく肝疾患である。我々は、全身の毛細血管や細静脈の内皮細胞を被覆するペリサイト(周皮細胞)マーカーの一つであるNG2(プロテオグリカンの1種)発現細胞の選択的除去が肝臓および腸管でのビリルビン代謝異常(黄疸)を引き起こすことや、RNAウィルス疑似感染条件下では肝不全様症状(発熱や全身の倦怠感による活動量低下、食欲低下に加え、肝組織内出血など)を誘発することを見出してきた。現在、全身性のNG2発現細胞と黄疸および肝不全様症状誘発との関連性について3つのキーワード(ペリサイト、炎症・免疫異常、細胞・組織障害)に着目しながら検討しています。