医薬品は、創薬の段階では未知であった効能や有害事象が、市販後に初めて明らかになる場合が少なからずあります。そのため、患者さんの治療の向上を目指して臨床における様々な事象を研究し、薬の適正使用のための有用な情報を収集する必要があります。このように、医薬品が患者さんにより役立つよう育て上げていくことを「育薬」といいますが、このためには、多くの職種が複合的に取り組まねばなりません。本講座は、多くの施設(病院、薬局、企業など)と共同研究を行い、医薬品の安全性(副作用や相互作用等)や有効性に関する様々な問題に対する基礎的研究を行っています。
病院や薬局などの臨床現場においては、患者の薬物治療を行う中で、医薬品の安全性(副作用や相互作用等)、有効性に関する様々な問題の基礎研究的な解明を行っています。
経腸栄養剤と併用することで、一部の薬物の体内動態変動が起こることが知られています。特に、抗てんかん薬であるフェニトインでは血中濃度低下の報告が多く、てんかん発作を誘発する可能性があります。しかし、この機序は未だ明らかにされていません。 本講座では、ラットに経口投与したフェニトインの血中濃度低下が、経腸栄養剤との同時投与による消化管からの吸収低下が要因であることを明らかにしました。また、フェニトインと経腸栄養剤の投与間隔を2時間あけた場合に、フェニトインの吸収低下を防ぐことが可能であることを見出しました。
現在も、さらに詳細な機序を研究中です。
10%フェノールグリセリン注は、がん疼痛などにおける神経ブロック目的で使用される注射剤ですが、市販薬がないため、院内製剤として製造されます。院内製剤を行う際に備えるべき書類として、使用期限・保管方法に関わるものが提唱されていることから、10%フェノールグリセリン注の安定性を検討しました。その結果、フェノールグリセリン注射剤の主薬であるフェノール含量や、安全な作用のために重要である比重および粘度は、5℃保存において調製後12ヶ月間、25℃保存において6ヶ月間は安定であり、保存後も調製直後と同様の臨床効果が期待できることを見出しました。これにより、日常業務における製剤業務の負担を最小限にし、効率よく運用するための明確な根拠を示しました。
アスピリン腸溶錠とテルミサルタン錠先発品との一包化により、錠剤同士の融合や、アスピリン腸溶錠の溶出率変化および含量低下が見られることが報告されていましたが、テルミサルタン錠後発品については不明でありました。本研究では、アスピリン腸溶錠と各社テルミサルタン後発品の接触による外観変化、各錠剤の溶出挙動変化、主成分の含量変化を検討しました。その結果、特定のテルミサルタン錠との接触において、相対湿度75%、30℃条件下にて1週間保管することで、アスピリン腸溶錠の外観や溶出挙動の変化が起こること、および、この相互作用が各薬剤の添加物による酸塩基反応によって引き起こされる可能性を見出しました。本研究結果より、特に夏季の高温多湿条件下においては、アスピリン腸溶錠と特定のテルミサルタン錠との一包化や無放送状態における保存は不適であるとの新たなエビデンスを得ました。