生化学は、体内で起こっている生命現象を化学的な視野で捕らえる学問です。化学から生物学全般にわたる幅広い分野を守備範囲にしています。すなわち、生体成分の性質とその体内での分解・合成、遺伝子工学などの分野がすべて含まれます。
講義では、生体成分、細胞の成り立ち、代謝、タンパク質、酵素、薬と遺伝子の関連などについて一緒に勉強します。
研究室では、薬物代謝に関わる酵素の副作用への関与とその遺伝子の制御のメカニズム、生活習慣病に対する遺伝子治療をターゲットに研究しています。また、所属学生の学会発表を奨励しています。毎年、卒業研究から得られた研究成果を、学生が薬学会等で発表しています。
カルボニル化合物とは、その構造中にいわゆるアルデヒド基やケト基を持つものの総称です。医薬品の中には多くのカルボニル化合物が含まれており、これらを摂取した時には、体の中に存在する酵素により代謝を受けた後、体外に排泄されます。また環境中にも多くのカルボニル化合物が存在しますが、アルデヒドなどは一般に反応性が高く、毒性を示すため、速やかに代謝して解毒する必要があります。カルボニル化合物の代謝経路にはいろいろな様式がありますが、本講座では、カルボニル化合物を還元代謝する酵素に注目しています。
多くの場合、酵素はある特定の決まった化合物のみに対して働きますが、カルボニル化合物を代謝する酵素群は、多くの不特定の化合物に対して作用します。実は体の中にも様々なカルボニル化合物が存在し、例えばステロイドホルモンもその一つであり、これらの酵素群によって代謝を受けます。また、酵素によっては細胞の癌化によって量が増えるものもあります。そこで私たちは、これらの酵素群の本当の生理的機能を見つけて、創薬に繋げることを目指して研究をしています。
肥満、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、ライフスタイルの欧米化に伴い増加しています。生活習慣病は、生活の質(quality of life; QOL)の低下、脳塞栓や心筋梗塞の原因となる動脈硬化の発症に関与します。そこで私たちは、生活習慣病の病態の解明および治療効果につながる遺伝子を探索しています。そして、治療効果があると考えられる遺伝子を体内に投与して治療を行う「遺伝子治療」に注目しています。
遺伝子を効率よく体内に届けるには、遺伝子の運び屋「ベクター」が必要です。アデノウイルスベクターは、既存の遺伝子導入ベクターの中で遺伝子導入効率が最も高く、多数の長所を有していることから、遺伝子治療臨床研究において汎用されているベクターです。私たちは、これまでに開発した安全性が高く、高性能な改良型アデノウイルスベクターを用いて、糖尿病をはじめとする様々な生活習慣病に対する遺伝子治療の開発に取り組んでいます。そして、より詳細な生活習慣病の病態の解明と、遺伝子治療をはじめとする創薬への応用を目指して研究を進めています。