動植物や微生物からは数多くの生物活性物質が見出されています。その中には、医薬品や医薬品候補化合物として利用されているものも少なくありません。このこともあり、天然資源は、医薬品開発においていまだ重要な探索源であります。 当研究室では、伝統医学で用いられる東南アジア産薬用植物に焦点をあて、これら薬用植物からの有用物質の探索に従事している。また、新たな非天然型天然化合物を創生するため、生薬や微生物の有効成分の生合成研究も試みている。最近、漢方薬の使用に関する意識調査研究も始めています。
天然資源から新たな構造を有する生物活性化合物の探索研究を展開しており、得られた化合物はしばしば有機合成化学者や薬理学者のターゲットとなる。また、有用成分の生合成研究においては、遺伝子や酵素などを扱うため、分子生物学的や遺伝子工学的手法が必要となる。これらのことから、本研究をさらに発展させるためには、様々な分野との共同研究は必須となる。
東南アジアは、植物や動物、海洋生物など地球上の生物種の約20%がこの地域で占めていると言う報告もある。実際に、東南アジアには4万種以上の植物が生育していることが確認されている。このうち、7,000~9,000種の植物が薬用植物と言われており、天然医薬用資源の宝庫と言っても過言ではない。このことから、それぞれの地域の薬用植物は伝統医学に用いられ、ミャンマーではミャンマー伝統医学、ベトナムではトゥーナン(Thuốc Nam)、インドネシアではジャムゥ(Jamu)など東南アジア各国では独自に発展した伝統医学が継承されている。近年、漢方薬をはじめとする様々な伝統医学が世界保健機構(WHO)の認定を受けて、西洋医学の代替医療として注目されている。このこともあり、各国の伝統医療がプライマリーヘルスケアの観点から見直されてきている。しかしながら、未だ東南アジア伝統医学は経験と知識に頼った治療であり、また、薬用植物の数が余りにも膨大なため、生物活性の作用メカニズムや有効成分などの科学的な調査や研究がほとんど進んでいない。 そこで、我々は薬用植物の薬効・効能の科学的根拠を立証する目的で、薬用植物の生物活性の評価及び生物活性成分の探索研究を行っている。
ミャンマー産ショウガ科植物Kaempferia pulchraから26種類の新規ジテルペンkaempulchraol類を単離することができた。いくつかのkaempulchraol類は、ガン細胞に対して増殖抑制効果及び抗Vpr活性が認めれた。一方、ミャンマーで採取したニガキ科Picrasma javanicaから14種の新規カシノイド化合物picrajavanicin類の単離・同定に成功している。インドネシア産フトモモ科植物Baeckea frutescensからは、9種の新規フロログルシノール類縁体baeckenone類、2種の新規シクロペンテノン、1種の新規フランの単離・同定に成功した。
放線菌や真菌をはじめとする微生物からは、今日まで抗生物質や抗癌剤など数多くの医薬品を生んできている。このように医薬品や医薬シードの探索において、微生物由来の二次代謝産物はさらに重要な探索源になると考えられる。しかしながら、その探索研究が進むにつれ、徐々に新規生物活性物質を得ることが難しくなっている。
放線菌由来の代謝産物は、生物活性を示し、さらに多様性のある化学構造を有しているものも多い。また、微量しか生産されない、あるいは、毒性が強いために臨床開発の途中で中断する医薬品シードも数多く存在している。このような有用な化合物を利用するために、化学的に全合成あるいは類縁体合成をする試みも行われているが、不斉炭素の多さや複雑な構造のため少ないステップで大量に作ることは難しく、生産コストが高騰することから工業的とは言い難いのが現状である。最近、分子生物学や遺伝子工学の技術の急激な発展により、抗生物質の生合成研究にもこの技術や手法が応用されるようになり、新たな類縁体の創製も可能となりつつある。
そこで、放線菌Streptomyces nodosus supsp. asukaensisが産生するマニュマイシン系抗生物質アスカマイシンに着目し、生合成遺伝子クラスターのクローニングを行った。また、シクロヘキサン環、C5N部分の生合成に関与すると考えられる酵素遺伝子を破壊した株を調製した。これら遺伝子破壊株を利用してmutasynthesisによる新たな類縁体の創製を試みたところ、シクロヘキサン部分がそれぞれに相応するシクロアルカンへと置き換わった化合物の産生が確認でき、新たなアスカマイシン類縁体の創製に成功した。
近年、漢方薬や中医学、アーユルベーダをはじめとする様々な伝統医学が世界保健機構(WHO)の認定を受けて、西洋医学の代替医療として注目されている。このこともあり、日本においても伝統医学である漢方薬がプライマリーヘルスケアやセルフメディケーションの観点から見直されてきている。そのため、薬局やドラッグストアでは漢方薬の取り扱いが多くなっている。
実際にどれくらい漢方薬に興味を持ち、使用している人がいるのか調査をする為、本学学生およびドラッグストアに来店した顧客を対象に、漢方および未病のアンケートを行った。その結果、約半数が漢方薬を使用した経験があり、興味があることがわかったが、そのほとんどが、葛根湯や小青竜湯など比較的有名な漢方薬しか使用したことがなった。
そこで、まずは感冒における漢方薬に限定し、症状を調査して、どのような漢方薬を含む市販薬が購入されているか調査した。漢方薬は、随証治療で処方されるものであり、患者の状態、すなわち「証」が適切でなければ、効果を発揮することが難しいといわれている。調査の結果、カゼで有名な葛根湯では、ドラッグストアの店頭で60%の人が適応証ではないことがわかった。
以上の結果を踏まえ、薬剤師や登録販売者などがサポートする事が、より適切な漢方薬をプロモーションする上で必要であると考えられる。今後、症状・状態にあった漢方薬を提供する為にはどの様な要素が必要なのか、調査を進めている。