「改善美 -美で社会を変革する-」という講演タイトルとデザイナーである社会活動家という幾田さんのプロファイルから少し硬い話を想像していましたが、桃の写真と自身の赤ちゃんの時の写真をならべ、桃のようなほっぺだったから桃子という名前になりましたという自己紹介から講演が始まりました。次に子供のころの着物姿の写真を映しながら小学校の登下校時の坂道は「社会の不条理」を考える時間で、中学時代は不登校のクラスメイトの家を訪問し、留学先のアメリカの高校では性別と人種の二重の差別を受け、おかしいと思う社会問題を解決する活動に参加し、キング牧師についてスピーチする大会で3位に入賞を果たされたそうです。
南カリフォルニア大学時代はファッション産業が環境破壊に深く関与していることを知り、2001年に古着や廃棄衣料を使った子ども服ブランドをスタートさせました。同時多発テロの影響で面談がキャンセルされたバーニーズ ニューヨークの本店に「I ♡NEW YORK 」のTシャツを着て訪問し、ただ純粋にニューヨークの人々を応援したいからやって来ましたと伝えたところ、それが次の展開への糸口になったという逸話、その後も性犯罪防止機能を世界で初めて搭載したNTTドコモの携帯電話、品川区にある女子中学・高校の制服の「そのままが一番可愛いから」の話やトヨタをはじめとして様々な企業と協同で性教育の大切さを伝える「りぼんプロジェクト」を始動させた話など、すべてが他の誰かのために何かをしたいという気持ちが自身の原動力になっていると穏やかにしかし力強く語られました。
これらは仏教の精神のひとつである「利他」に通じるものであり、その「利他」の精神が幾田さんのデザインと結びつき、美を通じて「誰かのために何か行動を起こしたい」、「皆さんも一緒に行動を起こしましょう」というのが主題だったと思います。
最後に会場から愛用されている帽子について質問がありました。幾田さんの帽子は、性別にとらわれない(ジェンダーレス)を表現しているそうです。また、国際女性デーの3月8日だけは皆さんが社会活動をしてくれるから私はお休みし、自分のためにムーミン谷に行くとうれしそうに話をされ、身近な等身大の幾田さんを感じることができた講演会でした。
6月22日まで開催されている令和7年度博物館春季特別展 大阪大谷大学宗教文化研究センター創設記念「改善美 -美で社会を変革する-」に是非お越しください。
宗教文化研究センター研究員 中田雄一郎
(薬学部特任教授)